商業作文家

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F、土曜の朝、左岸、ブキニスト。

 

 

 

 

まけておくよ、ムッシュ。あんたさっきから熱心に眼を通してるだろ。気づくと、隣りに老店主がいる。Fはいくらか年季の入った、お世辞にも状態が良いとは云えないが、長いこと探していた稀少なペイパーバックに眼を落とす。 あんたよく見かけるよな。近所なのか。 Fはうなずく。テリトリーの散歩が日課なのだ。 そうかい。だったらまた寄ってくれよ。良い本が手に入ったらあんたに薦めたいんだ。ここらじゃありきたりの土産物を並べてるような店ばかりだろ。おれはあんなのが許せないたちでね。ちゃんと価値の判る客に本を売りたいんだ。 店主と握手を交わすと本を小脇に携え、セーヌ河畔を歩く。川面を渡る風には、雨もよいの匂いが混じる。Fはことのほか鼻が利くのだ。夕刻にはひと雨きそうだ。それも短くひどい雨だ。Fは空の向うを見上げる。夏が近づいていた。

 

 

 

 

 

 

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ジャン・クニオカ個展『 Monsieur F (ムッシュ・エフ)』によせて

 

 

 

『影山健太郎仕事集第三十七番』